オンコール待機は労働時間か|判断基準・裁判例と手当設計の注意点

オンコール待機は労働時間か|判断基準・裁判例と手当設計の注意点

在宅医療の医師や看護師に夜間・休日のオンコール当番をお願いするとき、「待機している時間は労働時間なのか」「手当はどう決めればよいのか」で迷う医療機関は少なくありません。この記事では、労働基準法上の労働時間の考え方、厚生労働省が示した判断の観点、主な裁判例、2024年4月から始まった医師の働き方改革と宿日直許可との関係を整理し、待機手当と出動時の賃金を設計するときの注意点をまとめます。結論は個別の事実関係で変わるため、制度を作る際は社会保険労務士や労働基準監督署にも確認してください。

この記事でわかること

  • 労働基準法上の「労働時間」の定義と、待機時間の考え方
  • オンコール待機が労働時間に当たるかを判断する3つの観点(厚生労働省Q&A)
  • 宿日直・宅直・オンコールをめぐる主な裁判例
  • 医師の働き方改革(2024年4月〜)と宿日直許可との関係
  • 待機手当・出動時の賃金の設計例と、就業規則で決めておくこと

労働時間は「使用者の指揮命令下に置かれている時間」

労働基準法第32条は、休憩時間を除き1週40時間・1日8時間を超えて労働させてはならないと定めています(保健衛生業などで常時10人未満の労働者を使用する事業場は、労働基準法施行規則第25条の2により1週44時間・1日8時間の特例があります)。では、どこからどこまでが「労働時間」なのか。ここは裁判例と行政の解釈で考え方が固まっています。

最高裁第一小法廷平成12年3月9日判決(三菱重工業長崎造船所事件)は、労働基準法上の労働時間とは「労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間」をいい、該当するか否かは、労働契約や就業規則の定めのいかんではなく、指揮命令下に置かれたものと評価できるかどうかで客観的に定まると判示しました。厚生労働省の「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」(平成29年1月20日策定)も同じ考え方に立ち、使用者の指示があれば即時に業務に従事することを求められ、労働から離れることが保障されていない状態で待機等している時間(いわゆる手待時間)は労働時間として扱わなければならないとしています。

待機時間の考え方を具体化したのが、最高裁第一小法廷平成14年2月28日判決(大星ビル管理事件)です。ビル管理会社の泊り勤務中の仮眠時間について、実作業に従事していないというだけでは指揮命令下から離脱しているとはいえず、労働から離れることが保障されていて初めて指揮命令下に置かれていないと評価できるとしました。そのうえで、仮眠室での待機と、警報や電話への相当の対応が義務付けられていた事案では、仮眠時間全体が労働時間に当たると判断しています。

オンコール待機の判断基準(厚生労働省の考え方)

医療機関のオンコールについて、厚生労働省は「医師の働き方改革に関するQ&A」(令和6年7月23日事務連絡)の問3-3で、オンコール待機中に求められる義務の態様は医療機関ごと・診療科ごとにさまざまであるとしたうえで、次の観点を踏まえ、待機時間全体について労働から離れることが保障されているかどうかで個別具体的に判断されるとしています。

  • 呼び出しの頻度がどの程度か
  • 呼び出された場合にどの程度迅速に到着することが義務付けられているか
  • 呼び出しに備えて、待機中の活動がどの程度制限されているか

また、厚生労働省の医療機関向け資料では、オンコール待機中に実際の診療が発生した場合、その診療に従事する時間は労働時間に該当すると明記されています。在宅医療では、患家へ出向かず電話で聴取・指示をして終わる対応も多くありますが、電話での助言や指示も業務そのものですから、その対応時間は実働として記録し、賃金計算の対象とするのが基本です。

観点 労働時間と評価されやすい方向の事情(例) 評価されにくい方向の事情(例)
呼び出しの頻度 当番のたびに複数回の電話や出動があり、対応に相応の時間がかかる 呼び出しのない日も多く、あっても短時間で終わる
到着までの時間 短い時間での到着が厳格に義務付けられている 到着時間の定めが緩やか、または他の医師等への交代が可能
待機中の活動制限 自宅など特定の場所での待機を求められ、外出や飲酒が実質的に禁止されている 連絡がとれる状態であれば、行動はおおむね自由
業務としての位置づけ 医療機関が当番を命じ、当番表を管理している 当事者間の自主的な取り決めにとどまる

上の表は考え方を整理するための例示で、ひとつの事情だけで結論が決まるわけではありません。注意したいのは、運用上の安心のために「○分以内に到着」「飲酒禁止」「自宅待機」といった制約を重ねるほど、待機時間そのものが労働時間と評価される方向に近づくという点です。制約は必要最小限にとどめ、その理由を説明できるようにしておきます。

主な裁判例の整理

事件名 裁判所・年月日 対象となった時間 判断のポイント
三菱重工業長崎造船所事件 最高裁第一小法廷 平成12年3月9日判決 始業前・終業後の更衣等 労働時間は指揮命令下に置かれている時間をいい、契約や就業規則の定めではなく客観的に定まる
大星ビル管理事件 最高裁第一小法廷 平成14年2月28日判決 泊り勤務中の仮眠時間 仮眠室での待機と警報・電話への対応が義務付けられ、労働からの解放が保障されていないとして労働時間に当たる
奈良県立病院産科医師事件 奈良地裁 平成21年4月22日判決、大阪高裁 平成22年11月16日判決(最高裁 平成25年2月12日の上告不受理決定により確定) 産科医の宿日直勤務と宅直勤務(オンコール) 宿日直は通常の勤務と同等の労働が行われており断続的労働に当たらず、全体が労働時間。宅直は医師間の自主的な取り決めで、明示または黙示の業務命令が認められないとして、宅直時間全体が労働時間とは認められない

奈良県立病院産科医師事件の宅直については、厚生労働省の検討会資料が事実関係を紹介しています。病院に宅直の規定はなく、宅直担当医の名前は病院に報告されず、宿日直の助産師・看護師にも知らされていなかったこと、宅直担当医が呼び出されて緊急に診療した場合には時間外手当が支払われていたこと、などです。逆にいえば、医療機関が当番を命じて管理しているオンコールは、この事件と同じ結論になるとは限りません。

このほか、訪問看護ステーションの看護師の待機時間について労働時間性を認めた例として横浜地裁令和3年2月18日判決(いわゆるアルデバラン事件)が、研修医の病院外でのオンコール待機について、求められた対応が緊急性の高いものに限られ短時間で、頻度もさほど多くないなどとして労働時間性を否定した例として千葉地裁令和5年2月22日判決(医療法人社団誠馨会事件)が、判例解説などで紹介されています。同じ「オンコール」でも結論が分かれていることからも、名称ではなく実態で判断されることがわかります。

医師の働き方改革(2024年4月〜)と宿日直許可

医師にも時間外・休日労働の上限が適用

2024年4月から、医師にも時間外・休日労働の上限規制が適用されています。厚生労働省の資料では、一般の医療機関に適用されるA水準の上限は年960時間、都道府県知事の指定を受けた医療機関で指定に係る業務に従事する医師(連携B・B・C水準)は年1,860時間とされ、月100時間未満(例外あり)の上限も設けられています。さらに、病院または診療所に勤務し診療を直接の目的とする業務を行う医師について、時間外・休日労働が月100時間以上となることが見込まれる場合は、管理者に面接指導の実施義務があり、時間外労働が年720時間または月45時間を超える月数が年6か月を超えることが見込まれる場合は、勤務間インターバルと代償休息の確保が努力義務となります(同Q&A 問2-1)。

在宅医療では、本務先の病院勤務のあとに非常勤でオンコールを担う医師も多いはずです。労働基準法第38条は、事業場を異にする場合でも労働時間を通算すると定めており、同Q&A 問1-2も、自院で雇用する医師の副業・兼業を把握している場合は自己申告等で兼業先の労働時間を把握し、通算して管理する必要があるとしています。オンコールで実際に働いた時間は、この通算の対象になります。

宿日直許可とオンコールの違い

労働基準法第41条第3号と同法施行規則第23条により、宿直または日直の勤務で断続的な業務について所轄労働基準監督署長の許可を受けた場合は、その範囲で労働時間規制が適用されません。厚生労働省のFAQ(2024年8月6日版)は、許可を受けた宿日直は上限規制との関係で労働時間にカウントされず、9時間以上連続したものは勤務間インターバルの休息時間として扱えるとする一方、許可によって在院時間の一部が労働時間から除外されることをもって、労働時間の短縮や勤務環境の改善がなされたと捉えるべきではないとも述べています。

許可の基準は、一般的な基準(常態としてほとんど労働する必要のない勤務であること、通常の労働の継続でないこと、宿日直手当が同種の労働者の賃金の1人1日平均額の3分の1以上であること、宿直は週1回・日直は月1回を限度とすること、宿直には相当の睡眠設備を設けること)に加え、医師・看護師等については令和元年7月1日の通達(基発0701第8号)で、通常の勤務時間の拘束から完全に解放された後のものであること、従事する業務が特殊な措置を必要としない軽度または短時間の業務に限られること、宿直の場合は夜間に十分な睡眠がとり得ること、などが示されています。

区分 労働時間規制の扱い 実際に業務をした時間 手当の考え方
許可を受けた宿日直 許可の範囲で適用除外 通常と同態様の業務をした時間は本来の賃金(必要に応じて割増賃金)を支払う 宿日直手当は同種労働者の1人1日平均額の3分の1以上
許可のない宿日直 通常の労働時間として扱う 労働時間 労働時間に対する賃金・割増賃金
自宅等でのオンコール待機 待機時間全体が労働時間かは個別に判断(Q&A 問3-3) 労働時間 待機手当の額を定めた法律の規定はない。待機が労働時間に当たれば賃金・割増賃金の対象

宿日直許可の基準は、宿直に睡眠設備を求めるなど、医療機関内での宿直・日直勤務を想定した内容です。自宅等で呼び出しに備える在宅医療のオンコールは、許可の有無ではなく、前述のQ&A 問3-3の観点で労働時間に当たるかを判断することになります。同問は、オンコール待機時間が労働時間に該当しない場合は勤務間インターバルや代償休息の確保に充てられるとする一方、代償休息はオンコールからの解放等、業務から切り離された状況で確保されることを想定しているとして、待機時間を代償休息に充てることには留意を求めています。

待機手当と出動時の賃金の設計例

押さえておきたい法的な前提

大星ビル管理事件の最高裁判決は、労働基準法上の労働時間に当たるからといって当然に労働契約所定の賃金請求権が発生するのではなく、その時間にどのような賃金を支払うかは労働契約の定めによるとしつつ、通常は賃金支払の対象となる時間とされていると解するのが相当だとしました。さらに、契約に定めがなくても、法定時間外労働や深夜労働に当たる部分については、労働基準法第13条・第37条に基づき割増賃金を支払う必要があると判断しています。

割増賃金の率は、法定時間外労働が25%以上(1か月60時間を超える部分は50%以上で、中小企業にも2023年4月1日から適用)、法定休日労働が35%以上、深夜(午後10時から午前5時)が25%以上です。深夜に月60時間を超える時間外労働を行わせた場合は75%となります。割増賃金の算定基礎から除外できるのは、家族手当、通勤手当、別居手当、子女教育手当、住宅手当、臨時に支払われた賃金、1か月を超える期間ごとに支払われる賃金で(労働基準法第37条第5項、同法施行規則第21条)、待機手当を算定基礎に含めるかどうかは手当の性格によって判断が分かれ得るため、設計段階で専門家に確認しておくと安心です。

3つの設計パターン

設計 待機時間の扱い 電話対応・出動の時間 向いている場面 注意点
A:定額の待機手当+実働払い 当番1回(1日)あたり定額の待機手当 実働時間を労働時間として集計し、法定時間外・深夜・休日に当たる部分は割増 呼び出しが少なく、待機中の制約が緩い 待機中の制約を強めると、待機時間自体が労働時間と評価されるおそれ
B:定額の待機手当+定額の出動手当 同上 出動1回あたり定額で支払う 計算事務を簡単にしたい 実働時間で計算した法定の割増賃金を下回らないか毎月確認し、不足は差額を支払う仕組みが必要
C:待機時間も労働時間として扱う 待機時間に対する賃金を労働契約・賃金規程で明確に定める 実働は別途、通常の賃金と割増で計算 呼び出しが頻繁、到着時間の制約が厳しい 待機時間が法定時間外・深夜に当たる部分は割増賃金の対象。待機と実働の賃金を区別して規定する

どのパターンでも、出動時間の始点と終点(自宅を出た時刻から帰宅した時刻までとするのか、患家到着から退出までとするのか)を就業規則や賃金規程で明確にし、判断に迷う部分は所轄の労働基準監督署や社会保険労務士に確認しておくことをおすすめします。具体的な金額は、地域の相場や呼び出し実績を踏まえて決めることになりますが、まず「待機」と「実働」を分けて記録・支払いできる仕組みを作ることが先です。

記録の保存にも注意が必要です。労働基準法第109条は賃金台帳など労働関係の重要な書類の保存期間を5年(経過措置により当分の間は3年)とし、賃金請求権の消滅時効も5年(同じく当分の間は3年)とされています。オンコールの扱いを誤っていた場合、未払いの請求は過去にさかのぼり得るため、早めの点検が大切です。

就業規則・運用で決めておくこと

  • □ オンコール当番を業務として命じる根拠(就業規則、労働条件通知書)が明記されている
  • □ 待機中に求める事項(連絡がつくこと、到着の目安、飲酒の可否、行動範囲)が必要最小限で、文書になっている
  • □ 電話対応の時間、出動の時刻、患家での診療時間を記録する方法が決まっている
  • □ 出動時間の始点・終点の定義が規程にある
  • □ 待機手当・出動時の賃金の計算方法と、法定の割増賃金との差額精算の方法が決まっている
  • □ 実働時間を月次で集計し、36協定の範囲内かを確認している
  • □ 医師について、月100時間以上の見込みの有無(面接指導)と兼業先との通算を確認している
  • □ 看護師・事務職員のオンコールにも同じ考え方を適用している
  • □ 年に1回は呼び出し実績を振り返り、待機の扱いと手当を見直している

よくある質問

Q. 待機手当を支払っていれば、待機時間は労働時間ではないと扱えますか。

A. 手当の有無では決まりません。三菱重工業長崎造船所事件の最高裁判決のとおり、労働時間に当たるかは契約や就業規則の定めではなく、指揮命令下に置かれていると評価できるかどうかで客観的に定まります。呼び出しの頻度、到着までの時間、待機中の制約の程度といった実態で判断されます。

Q. 宿日直許可を取れば、自宅でのオンコールも労働時間から外せますか。

A. 宿日直許可は、宿直・日直の勤務で断続的な業務を対象に労働基準監督署長が許可する制度で、宿直には睡眠設備の設置が条件とされるなど、医療機関内での勤務を想定しています。自宅等でのオンコール待機は、厚生労働省Q&A 問3-3の観点で労働時間に当たるかを個別に判断することになります。

Q. 電話で指示しただけで出動しなかった場合、その時間も労働時間ですか。

A. 電話での聴取や指示は業務そのものですから、その対応時間は実働として記録し、賃金計算の対象とするのが基本です。待機時間全体が労働時間に当たるかどうかとは別に、実際に働いた時間は労働時間です。

Q. 他の病院が本務先の非常勤医にオンコールを依頼する場合、何に注意すればよいですか。

A. 労働基準法第38条により、事業場を異にする場合も労働時間は通算されます。厚生労働省Q&A 問1-2のとおり、副業・兼業を把握している場合は自己申告等で兼業先の勤務予定や労働時間を把握し、通算して管理する仕組みを作っておく必要があります。

まとめ

オンコール待機が労働時間に当たるかは、手当や呼び方ではなく、呼び出しの頻度、到着までの時間、待機中の活動制限といった実態から「労働から離れることが保障されているか」で判断されます。裁判例でも結論は分かれており、医療機関が当番を命じ、制約を強めるほど労働時間と評価されやすくなります。実際に働いた時間(電話対応を含む)は労働時間として割増賃金の対象になり、医師については2024年4月からの上限規制や面接指導、兼業先との通算にも関わります。「待機」と「実働」を分けて記録し、就業規則と賃金規程で扱いを明確にしておきましょう。

参考資料

本記事は2026年10月時点で公表されている資料をもとに作成しています。算定の可否は個別の状況で異なるため、最終的には告示・通知・疑義解釈や、管轄の地方厚生局・保険者にご確認ください。

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