生活保護受給者の在宅医療|医療券・介護券の流れと請求時の公費番号

生活保護受給者の在宅医療|医療券・介護券の流れと請求時の公費番号

生活保護を受けている患者さんの訪問診療では、保険証の代わりに福祉事務所が発行する「医療券」が資格の証明になり、介護保険のサービスには「介護券」、薬局には「調剤券」と、券の種類も届く先もばらばらです。券が月ごとに発行されるため、毎月の請求のたびに「今月の券は届いているか」「番号は先月と同じか」を確認しなければならず、慣れないうちは返戻の原因になりがちです。この記事では、厚生労働省の医療扶助・介護扶助の運営要領と請求の記載要領をもとに、在宅医療で必要になる券の流れと請求時の番号の扱い、よくある事務ミスを整理します。

この記事でわかること

  • 生活保護受給者の医療・介護が、どの制度の組み合わせで支払われるか
  • 福祉事務所への依頼から医療券・調剤券・介護券を受け取るまでの流れと、券の有効期間
  • 訪問看護を医療扶助で行える場合と、介護保険が優先される場合
  • 医療扶助のオンライン資格確認でできること、できないこと
  • 請求時の公費負担者番号・受給者番号の扱いと、よくある事務ミスの防ぎ方

生活保護受給者の医療・介護は、どの制度で支払われるか

まず押さえたいのは、生活保護を受けている世帯の人は、国民健康保険と後期高齢者医療制度の被保険者にならないという点です(国民健康保険法第6条第9号、高齢者の医療の確保に関する法律第51条第1号)。そのため、多くの受給者は医療扶助の単独で医療を受けます。会社の健康保険の被扶養者であるなど、被用者保険に加入している人は、保険と医療扶助の併用になります。

介護保険は事情が違います。65歳以上の人は、市町村に住所があれば生活保護を受けていても第1号被保険者です(介護保険法第9条第1号)。一方、40歳以上65歳未満の第2号被保険者は「医療保険加入者」に限られる(同条第2号)ため、医療保険に入っていない40〜64歳の受給者は介護保険の被保険者になりません。この人たちは「被保険者以外の者」として、介護扶助で介護サービスを受けます。

患者の状況 医療(訪問診療など) 介護(居宅療養管理指導など)
医療保険なし・65歳以上 医療扶助単独(医療券) 介護保険が優先し、自己負担分を介護扶助(介護券)
医療保険なし・40〜64歳 医療扶助単独(医療券) 介護保険の被保険者ではないため介護扶助(介護券)。被保険者番号は福祉事務所が付番する「H」で始まる番号
被用者保険に加入 保険と医療扶助の併用(保険証等+医療券) 介護保険が優先し、自己負担分を介護扶助(介護券)

法別番号は、医療扶助・介護扶助のどちらも12です(診療報酬請求書等の記載要領の「12(生保)」、介護給付費請求書等の記載要領 別表2の「生活保護法の介護扶助」)。

医療扶助の流れ:福祉事務所への依頼から医療券の受け取りまで

医療扶助の手続きは、「生活保護法による医療扶助運営要領」(昭和36年社発第727号)に定められています。在宅医療の場面に沿って整理すると、次のようになります。

  1. 福祉事務所への連絡・申請:すでに保護を受けている人が医療扶助を受けるときは、保護変更申請書(傷病届)を福祉事務所長に提出します(保護を受けていない人が医療扶助を申請する場合は保護申請書)。福祉事務所は、必要に応じて医療要否意見書や訪問看護要否意見書(医療要否意見書等)を発行します。
  2. 要否意見書の記入:指定医療機関が医療要否意見書等に意見を記入し、福祉事務所へ提出します。事情によっては医療機関から直接提出してもよいとされています。
  3. 医療扶助の決定と医療券の発行:福祉事務所長が医療扶助を決定し、医療券を発行します。
  4. 診療と請求:指定医療機関は医療券に基づいて診療し、翌月10日までに審査支払機関へ請求します。

訪問開始前の連絡が重要です。運営要領では、医療扶助を適用する日は原則として「保護申請書または保護変更申請書(傷病届)の提出のあった日以降において医療扶助を適用する必要があると認められた日」とされています。新しく訪問診療を始める受給者は、初回訪問の前に、担当ケースワーカーへの連絡と傷病届の提出を済ませてもらうよう段取りしておくと安全です。

医療券の有効期間と継続

  • 暦月単位:医療券は暦月を単位として発行されます。月の途中から始まる、または月の途中で終わる場合は、その有効期間が記載されます。月末に始まって翌月にまたがる場合は、翌月分の医療券を同時に発行してもよいとされています。
  • 継続の確認:翌月も医療が必要なら、翌月分の医療券が発行されます。ただし、引き続き3か月(一定の入院外患者=運営要領でいう「併給入院外患者」と、訪問看護の利用者は6か月)を超えて医療が必要な場合は、あらためて医療要否意見書等で継続の要否が検討されます。在宅医療では、定期的に要否意見書の記入依頼が来ることを前提に、医師の記入予定を組んでおきます。
  • 補正:有効期間の延長が必要なときは、医療機関の申出に基づき福祉事務所が補正します。治療中に医療券に書かれていない傷病が発生した場合は、医療券の「傷病名」欄の下部余白と、診療報酬明細書の「傷病名」欄・「診療開始日」欄の下部余白に記入して請求するよう、運営要領で示されています。

なお、医療扶助を担当するには、生活保護法第49条による指定医療機関の指定が必要です。指定は6年ごとの更新制です(同法第49条の3)。保険医療機関の指定とは別の手続きなので、開業時や移転時に漏れていないか確認してください。

調剤券・訪問看護・介護券の扱い

調剤券(薬局)

受給者が診療と同時に指定薬局での調剤を希望した場合、福祉事務所は医療券と同時に調剤券を発行します。受給者は、医療機関が交付した処方箋を調剤券に添付して、調剤券に記載された指定薬局に提出します(電子処方箋の場合を除く)。調剤券の「指定医療機関名」欄には、調剤を委託する薬局名と、処方箋を発行した医療機関名が括弧書きで記載されます(医療券等の記載要領)。訪問診療で院外処方をする場合、薬局側の調剤券が月ごとに用意されているかも、連携先の薬局と確認しておくとトラブルを防げます。

訪問看護

運営要領では、要介護者・要支援者に対する訪問看護は介護保険または介護扶助が優先されるとしています。医療扶助で訪問看護を行うのは、急性増悪時の訪問看護、末期がん・難病等に対する訪問看護、精神疾患のある患者(認知症が主傷病の人を除く)に精神科訪問看護指示書が交付された場合の精神科訪問看護に限られます。医療扶助の訪問看護では、訪問看護要否意見書で要否が判断され、訪問看護に係る医療券が発行されます。運営要領は、福祉事務所が医療券を発行する際に訪問看護事業者と密に連絡をとり、基本利用料以外の利用料の支給対象を事前に明らかにしておくよう求めています。

基本利用料以外の利用料に相当する費用(交通費など)は、指定訪問看護事業者が当月分の利用料請求書を作成し、翌月10日までに医療券を発行した福祉事務所長へ提出する扱いです。診療報酬の請求とは別の書類なので、提出漏れが起きやすいポイントです。

介護券(居宅療養管理指導・訪問看護など)

介護扶助は「生活保護法による介護扶助の運営要領」(平成12年社援第825号)で運用されています。介護券について在宅医療の現場で押さえておきたい点は次のとおりです。

  • 介護券は暦月単位で発行され、月の途中で始まる・終わる場合は有効期間が記載される
  • 介護券は福祉事務所から指定介護機関へ直接送付される
  • 指定介護機関は、介護券に記載された本人支払額以上の利用者負担を受け取らない
  • 介護券から介護給付費明細書へ、必要事項を正確に転記する
  • 介護券は、福祉事務所の確認作業が終わるまで指定介護機関で保管する(保管期間は都道府県市が定める)

居宅療養管理指導も介護扶助の対象です。介護保険の指定を受けた事業者は、生活保護法第54条の2第2項により、介護扶助を担当する指定介護機関の指定を受けたものとみなされる仕組みがあります。

医療扶助のオンライン資格確認と在宅医療

令和6年3月1日から、マイナンバーカードを使った医療扶助のオンライン資格確認が始まっています。福祉事務所が資格情報と医療券・調剤券の情報を登録し、医療機関・薬局がレセコン等を改修し、受給者がマイナンバーカードの利用登録をすることで利用できます。厚生労働省の資料から、医療機関側に関係する点をまとめます。

  • 医療券・調剤券の情報(資格の有効期限や委託先の医療機関等)がオンラインで確認できる
  • 自院が委託先として登録された医療券・調剤券の情報を、レセコン等から一括で取得できる(福祉事務所が後から登録した情報も、受給者の再来院なしで確認できる)
  • 委託を受けていない医療機関で資格確認をした場合は「未委託」である旨が表示され、公費負担者番号・受給者番号は連携されない
  • 受給者がマイナンバーカードを持っていない場合や、医療機関がオンライン資格確認を導入していない場合は、紙の医療券・調剤券が発行される
  • 要否意見書は、これまでどおり紙で運用する
  • 医療保険で行われているレセプトの振替・分割について、福祉事務所(医療扶助)は対象外とされている

在宅医療で注意したいのは、訪問診療・訪問看護での扱いです。厚生労働省の「医療機関・薬局向け 医療扶助のオンライン資格確認導入の手引き」(令和6年9月改訂版)のQ&Aでは、医療扶助のオンライン資格確認は訪問診療・訪問看護・オンライン診療に「今後対応する予定」とされています。現在の対応状況は、厚生労働省の「医療扶助のオンライン資格確認」のページや医療機関等向け総合ポータルサイトで確認してください。それまでは、在宅の患者は紙の医療券を前提に運用し、委託先資格情報の一括取得機能が使える場合は、券の到着確認の補助として活用するのが現実的です。

なお、医療機関向けのリーフレットでは、医療扶助のオンライン資格確認の導入助成金は今年度で終了し、申請期限は令和9年2月1日とされています(予算上限に達した場合は受付停止)。未導入の場合は、早めにシステム事業者へ相談するとよいでしょう。

請求時の公費負担者番号・受給者番号の扱い

医療券・介護券の番号は、請求データの正しさを左右します。記載要領などで確認できるルールを整理します。

項目 医療券(医療扶助) 介護券(介護扶助)
公費負担者番号 8桁(法別番号2桁・都道府県番号2桁・実施機関番号3桁・検証番号1桁) 介護券発行福祉事務所の所定の8桁(医療扶助と同じ番号を使ってもよい)
受給者番号 7桁(受給者区分6桁・検証番号1桁)。原則として受給者ごとの固定番号を使わない 7桁。原則として固定番号を使わない。同一月に発行する介護券は同じ番号。医療扶助と共通番号でもよい
有効期間 暦月単位。月の途中の始期・終期は券に記載 暦月単位。当該月のうち介護扶助を適用する期間を記載
本人支払額 ある場合に記載(10円未満切り捨て)。ない場合は斜線 ある場合に記載。ない場合は斜線
その他 月の途中で住所変更により公費負担者番号が変わった場合は、変更前を第1公費、変更後を第2公費として扱う(診療報酬請求書等の記載要領) 被保険者以外の者は、福祉事務所が「H」で始まる固定の被保険者番号を付番(2〜4桁目は福祉事務所コードの機関番号)

特に重要なのは、受給者番号が毎月同じとは限らないことです。医療券等の記載要領では、受給者区分に受給者ごとの固定番号を使わないことを原則としています(照合のために固定番号とする必要がある場合は固定でもよい)。前月の番号をレセコンに残したまま請求すると、券と一致せず返戻になります。どちらの運用かは福祉事務所によって違うので、毎月、届いた券の番号で上書きする運用にしておくのが確実です。

よくある事務ミスと防ぎ方

よくあるミス 起きる理由 防ぎ方
当月の医療券が届かないまま請求してしまう 券が暦月単位で、毎月発行されるため 月初に「券の到着一覧」を作り、未着者は福祉事務所へ確認。オンライン資格確認の一括取得が使える場合は補助に使う
受給者番号を前月のまま入力 固定番号を使わない運用の福祉事務所がある 毎月、券面の番号で更新し、入力者と確認者を分ける
転居後も旧福祉事務所の番号で請求 転居で実施機関(公費負担者番号)が変わる 転居の情報が入ったら新旧の福祉事務所に確認。月途中の変更は第1公費・第2公費で記載
保護開始前・廃止後の訪問を医療扶助で請求 医療扶助の始期は傷病届の提出日以降が原則 新規の受給者は初回訪問前に福祉事務所へ連絡。券の有効期間と訪問日を突合
医療券にない傷病の診療を、傷病名を追加せずに請求 途中で傷病が増えても券は自動で変わらない 券の傷病名欄・明細書の傷病名欄の下部余白に追記して請求
要介護者の訪問看護を医療扶助で請求 要介護者の訪問看護は介護保険・介護扶助が優先 急性増悪・末期がん・難病等・精神科訪問看護に当たるかを確認
介護券の本人支払額を明細書に転記し忘れる 介護券が事業所へ直接届き、医事担当者の目に触れにくい 介護券の保管場所と転記の担当者を決めておく
訪問看護の利用料請求書を出し忘れる 診療報酬とは別書類で、提出先も福祉事務所 月次の締め作業に「翌月10日までに利用料請求書」を入れる

生活保護受給者の月次確認チェックリスト

  • □ 当月分の医療券(訪問看護・調剤の券を含む)が全員分届いている
  • □ 介護券が届いており、本人支払額・有効期間を確認した
  • □ 公費負担者番号・受給者番号を、当月の券面の番号で入力した
  • □ 訪問日がすべて券の有効期間内にある
  • □ 転居・入院・保護の廃止など、福祉事務所からの連絡を反映した
  • □ 医療要否意見書・訪問看護要否意見書の記入依頼に期限内に対応した
  • □ 訪問看護の基本利用料以外の利用料請求書を福祉事務所へ提出した

よくある質問

Q. 生活保護受給者は、医療券がないと訪問診療できませんか?

A. 運営要領では、医療扶助による診療の給付は医療券を発行して行うとされています。急な受診などで券の確認ができない場合、医療機関が電話等で福祉事務所に医療扶助の利用可否を照会したうえで診療する運用もあることが、厚生労働省の資料で触れられています。ただし、医療扶助の始期は原則として傷病届の提出日以降なので、計画的な訪問診療では、開始前に福祉事務所と調整しておくことが基本です。

Q. 65歳以上の受給者の居宅療養管理指導は、どこに請求しますか?

A. 65歳以上の受給者は介護保険の第1号被保険者なので、介護保険が優先します。介護保険の給付分と介護扶助(介護券)の分を、介護給付費として国保連に請求します。介護券の公費負担者番号・受給者番号を明細書に正確に転記してください。

Q. 医療扶助のオンライン資格確認を導入すれば、紙の医療券は不要になりますか?

A. 受給者がマイナンバーカードを持っていない場合や、オンライン資格確認が未導入の医療機関を受診する場合は、紙の医療券が発行されます。また、導入の手引き(令和6年9月改訂版)では、訪問診療・訪問看護は今後対応予定とされています。リーフレットでは、カードを持っていない人も受給者番号等で資格確認して紙の医療券を不要とする予定とされていますが、運用の開始時期は最新の案内で確認してください。

Q. 医療扶助のレセプトも、資格が違えば審査支払機関が振り替えてくれますか?

A. 医療保険では、資格が変わっていても新しい保険者へレセプトを振り替える仕組みがありますが、厚生労働省の資料では、医療扶助(福祉事務所)はレセプト振替・分割の対象外とされています。転居などで福祉事務所が変わった場合は、医療機関側で正しい番号に直して請求する必要があります。

まとめ

生活保護受給者の在宅医療では、医療は医療扶助(医療券)、介護は介護保険と介護扶助(介護券)、薬局は調剤券と、券の種類と届く先が分かれます。券はいずれも暦月単位で、受給者番号が毎月変わることもあるため、「当月の券で、当月の番号を入れる」ことが返戻を防ぐいちばんの基本です。医療扶助の始期は傷病届の提出日以降が原則なので、新規の訪問は福祉事務所との事前調整から始めましょう。オンライン資格確認は医療扶助にも広がっていますが、訪問診療・訪問看護での対応状況は最新の案内を確認しながら、当面は紙の券を前提にした点検の仕組みを整えておくのが確実です。

参考資料

本記事は2026年10月時点で公表されている資料をもとに作成しています。算定の可否は個別の状況で異なるため、最終的には告示・通知・疑義解釈や、管轄の地方厚生局・保険者にご確認ください。

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